自然菜園は無農薬で栽培を行うので病害虫に強い品種が適しています。
しかし販売されている品種は農薬を使うことが前提に作られているため、自然菜園をすると病害虫の被害を受けてしまうことがあります。
そこで自然菜園に適した品種を自分で作り出す自家採種が注目を集めています。
そこで今回は、自家採種できる品種や自家採種の方法、種の保存方法について紹介します。
自然菜園について知りたい人は、まずはじめに 以下の記事をご覧ください。
自家採種で品種育成
自然菜園は無農薬で栽培を行うので病害虫に強い品種が適しています。 病害虫に強い品種とは、同じ自然栽培をしている畑で育てられている品種です。
ホームセンターや園芸店などで売られている種は、農薬や化学肥料を使用することが前提で育種されたものが多いです。 そのため、自然栽培で育種された種や苗を探すことは意外と難しいのが現状です。
自然菜園に適した品種の探し方
では、どのように探せば良いのか? 結論、探すのではなく、自分で育てるのです。
自然栽培をはじめたら、その年から自家採種を行いましょう。
自分の畑の種がなぜ良いのかと言うと、「その畑にもっとも適している」からです。 気候風土や微生物、病害虫への耐性など、すべてにおいて店頭の種や苗よりもあなたの畑に適しています。
元気よく育った野菜の株から採種することを毎年続けていれば、年々適性も高まってきます。
なぜ自家採種の種が自然菜園に適しているの?
自家採種の種があなたの畑に適している理由は、自然栽培に適応しようとして野菜自ら遺伝子を組み替えるからです。
私たちが引っ越ししたときに、地域になじもうとするのと同じです。 野菜もその土地の土や気候、微生物、病害虫などに適応しようとします。
最初は市販の種や苗からスタート
自然菜園をはじめた当初は自然栽培の種はないので、市販の種や苗を買います。 その後、自家採種を3~4年以上続けていると、次第に無農薬栽培に順応して栽培しやすい品種になります。
最初の種は固定種を選ぶ
自然菜園では、一代交配種(F1種)よりも固定種がおすすめです。 以下に「固定種」と「一代交配種」について説明します。
固定種とは
固定種は昔から人間が「元気な野菜の種だけを採種して栽培する」ことを昔から現代まで繰り返し続けている品種です。
固定種は、その土地の気交風土に適した性質を持ち合わせており、数多くの品種があります。 固定種でもいろいろな形質が出てくるので、好みの形質を選抜して自家採種しましょう。
一代交配種とは
固定した形質を持った2品種を親として交配した雑種第一代目の品種。雑種強勢の遺伝法則から新品種に比べて生育がよく、形質も優れている。ただし、その種をまいても、次の世代は同じ形質はそろわず、品質も低下する。 (引用サイト:weblio辞書)
一代交配種は(Filial 1 hybrid)の頭文字を取って「F1種」とも呼ばれています。
簡単に説明すると、性質が全く違う両親(固定種)から良いところだけを掛け合わせて生まれた、子供世代(ハイブリッド)のことです。
一代交配種は、親の強い形質だけが現れて均一に育ちます。 その反面、形質の異なった親から生まれるので、強い部分も弱い部分もすべての形質を受け継ぎます。
1代目は「いいとこどり」できますが、2代目、3代目と進むたびに一代目の形質とは異なった部分が強く現れます。 そのため、一代交配種を自家採種しても同じ物はできません。
ただし、一代交配種でも固定種に変えることはできます。
年数はかかりますが、自家採種を選抜しながら継続していれば、そのうち固定種になります。
固定種と一代交配種のイメージ
固定種と一代交配種のイメージは下図の通りです。
固定種は、昔から同じ土地で栽培されており、元気な種だけを採種して同じ品種同士で栽培を続けたものです。 一代交配種は、「病害虫に強く、味も良い品種にしたい」という目的に応じて、必要な品種を掛け合わせたものです。
他家受精野菜の交雑を防ぐ方法
植物は、大きく分けて以下の3タイプに分かれます。タイプによって採種方法が変わります。
受精のタイプ
- 自家受精:自らの花粉で受精するタイプ
- 他家受精:他の株の花粉でしか受精できないタイプ
- 自家・他家受精:両方で受精できる中間タイプ
自家受精タイプ
自家受精タイプは、他の作物の助けを借りなくても自分で子孫を残せます。 そのため、毎年同じ形質の作物や採種ができます。
自家受精する作物
ダイズ、インゲン、ラッカセイ、イネ、オオムギ、コムギ、トマト、レタス、シソ、ナス、ピーマン、オクラ
他家受精タイプ
他家受精は、自然界の生存競争に生き残るため、多種多様な遺伝子を取り込む戦略です。
近くに欲しい形質とは異なる品種があった場合、昆虫や風によって花粉が運ばれて交雑します。 結果として、親とは違う形質を持った雑種になります。
対策としては、以下のような工夫をしましょう。
交雑しないための工夫
- 人工授粉をする
- 寒冷紗などを掛けておく
- ハウスなどで育てて部分的に隔離する
- 開花時期が異なった他家受精野菜を育てる
このように他の花粉が飛んできたり、昆虫に受粉させないような対策が必要です。 また、植え付け時期をずらして開花時期がずれれば、交雑する危険も制御できるので検討してみましょう。
他家受精の採種株は最低でも10株以上は確保しましょう。
他家受精する作物
ホウレンソウ、トウモロコシ、メロン、キュウリ、スイカ、カボチャ、ブロッコリー、ダイコン、カブ、キャベツ、ツケナ類、ライムギ、ソバ
自家・他家受精タイプ
自家受精と他家受精の両方で受精できる中間タイプも存在します。
自家・他家受精する作物
ゴボウ、ニンジン、ネギ、タマネギ、カラシナ、タカナ、カキナ、ソラマメ
採種株の選抜方法と選別基準
ここでは採種株の選抜方法と選別基準について紹介します。
自家採種の選別基準
自家採種する際の選別基準は以下の通りです。
選別基準
- 病気になっていない健康な株
- 暑さに強い株
- 形や味が良い株
以上の3つが基準になりますが、もう一つ大事なことがあります。 それは、自家採種をはじめてから3年くらいは、多めに採種株を育てることです。
多めに育てて、上位3位までの株を自家採種していき、環境の変化にも対応できる品種を育成します。
種子にも寿命があるので、定期的に更新しましょう。
更新方法は、3年以上育ててすべての株の形質が固定されてきたら、種子の寿命が切れる前に自家採種を行い更新します。
根菜類の選抜
収穫時に一度掘り起こして根の形や食味をして選抜し、その後、改めて植え直します。
選抜方法は以下の順に行います。
根菜類の選抜手順
- 最低10本以上栽培し、一斉に収穫する
- その中から異質のタイプと病害虫被害にあっているものは除外する
- 残った株を小さい順に横一列に並べ、中央の大きさがそろった10数本を選抜する
- 葉をつけたまま、斜めに植え直す
- 花が咲いたら、はじめの2本は抜き、残った株から採種する
秋に植え直すと根に養分を蓄えているため、翌春には新しく根が生えてトウ立ちし、 花を咲かせて種ができます。
はじめに花が咲いた株はトウ立ちしやすい個体のため、採種せずに早めに抜きましょう。
葉菜類の選抜
越冬できる野菜は、秋に種をまいて春に選別作業を行います。 選別基準は、病害虫や寒さに強いものを選ぶことです。
越冬できない野菜は、春に種をまいて初夏に花を咲かせてから採種します。
葉菜類もトウ立ちしやすいものは、早めに抜いて、トウ立ちしにくいものを選びます。
果菜類の選抜
果菜類は、開花してから種子ができるまでに40~55日以上かかるので、計画的に行いましょう。
自家受精しやすいトマトやナス、ピーマンなどは味見なども行い、条件にあった形質の株の果実を選抜して採種します。
注意点として、異なる品種が隣接している場合は慎重に選別を行ってください。
他家受精しやすいトウモロコシやカボチャ、キュウリなどは風や防虫対策が必要です。
具体的には以下の作業を行います。
他家受精対策
- ハウスや寒冷紗などで株を隔離する
- 開花前に雌花に袋をかぶせておき、条件にあった株の雄しべの花粉を人口受粉させる
果菜類の選抜方法は以下の手順で行いましょう。
果菜類の選抜手順
- 霜が降りる40日前までに採種果を選抜する
- 採種する果実(2~3個)の種子を充実させるため、他の実は小さいうちにすべて取る
- また、樹が枯れるまで実をつけておいた方が種子が充実する
- 霜が降りる前に収穫する
- 果実を暖かい部屋に置き、さらに熟して種子を充実させる
充実した種子の選び方は、種子を水に浮かべて「沈んだ種子が良いもの」です。
選別が終わったら、種子をよく洗って不純物を取り除いてから、タオルなどで水気をふき取ります。
その後、風通しの良い場所に置き、2週間~1カ月ほどよく乾燥させれば完成です。
種子の保存方法
種子は密閉できる容器や袋に乾燥材といっしょに種子を入れ、冷蔵庫で保存します。
冷蔵庫で低温保存すると種が休眠状態に入り、発芽率の減少を防ぐことができます。
種子の保存方法
保存方法は以下の手順で行います。
種子の保存手順
- 種子をよく乾燥させる
- 一升瓶に9割ほど種子を詰め、口を半開きにした状態で2週間ほど置いておく
2週間置いておくのには理由があります。
種子は呼吸をして一升瓶の中にある酸素を吸収し、二酸化炭素を出します。
一升瓶が二酸化炭素で満たされると、酸素を必要とする虫も生きられないので発生を抑制できるのです。 それと同時に種子の呼吸が抑制され、種子の呼吸による消耗を防いでくれます。
種子の寿命
種子の寿命は野菜によって異なります。
ダイズやニンジン、ネギ類は短命で1~2年程度であるため、基本的には翌年には使い切ります。 長寿命の種子も年々発芽率は低下するので、発芽試験を行ってから種まきを行います。